思い切り、出来る限りの大声をだしてわたしは、中途半端に引っ掛けるように履いた自分の右足の黒っぽい靴を、

夕焼けの紅い空へと向かって、たかくたかく蹴飛ばした。











「・・、なーにやってんだ?」


「ん?天気占いだよー。武もやってみる?」

「ん、いや、俺はいいやー」

「・・あ!明日の天気は晴れ、だってさ」

「ふうん・・・つか、それって本来下駄でやるんじゃなかったっけ。普通の靴でも当たるのか?」

「分かんない。でもいいの! 私は私流で行くから!」

「はは、何だよそれ」




「・・やっぱ、俺もやってみっかなー。靴占い」

「きっと晴れって出るよー」

「わかんねえじゃん。もしかしたら晴れのちくもり、とかかもしれねーだろ?」

「なにそれー。ていうかどうやってそんな『のちくもり』だなんて細かいのまでわかるの?」

「・・・・・勘?」

「あはは!なにそれ意味わかんないよ!」


「・・・あ、ほら、結果が出たぞ」

「お、何て出たの?」

「くもり」

「じゃあ、その武論で行くと、明日は晴れのちくもり、になったりもするのかな?」

「なるかもしんねーなあ」

「なんかそれって、よく考えたら結構微妙だよねー」

「微妙だな」

「でも、わたし的に明日は、ちゃんとした"晴れ"になってほしいな」



「・・・なあ、ー」

「なあにたけしー」

「そろそろ、家に帰らねえ?」

「やだ。まだ帰らないー」

「親が心配してるぞ?」

「・・帰らないもん」

「なんで」

「帰っても、意味なんてないんだもん」

「・・・だから、なんで」

「・・・・・・」


「答えろよ」

「たけし、怒ってる、の? 声がなんか、こわいよ」

「いいから、答えろ」


「・・・・いばしょ、無いもん」

「・・・居場所?」

「わたしの居られる場所なんて、無いんだもん」

「・・そうか」

「・・・」



「じゃあ、今晩、どうするんだ?」

「うーんどうしよう? 野宿、かな」

「・・・どこで?」

「そこの公園のベンチ」

「そういえば最近のこの付近って、変質者とかヤンキーが沢山出ることで有名だよな。しかも複数。大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ心配しないで!いざとなったら、必殺のメガトンパンチとかメガトンキックとか、この辞書二冊入り学校指定バッグで殴りつけるとか、靴底で殴りつけるとか、筆箱の中のハサミで斬り付けたりして何とか撃退するから!」


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」



「・・・・そんなもんでちゃんと撃退できると、本気で思ってんのか?一人ならまだしも、複数だぜ?」

「う・・、で、でもっ」

「ちょっと押さえつけられたら終わりだとか、思わねえの?」

「・・・・・思い、ます」



「せめて、催涙スプレーとかは?持ってねえの?ブザーとかも?」

「・・・・両方、持ってない、です」



「俺、ここに居てやろうか?」

「・・え!だ、駄目だよ!つよしさんが心配するから、たけしは帰らなきゃ駄目!」

「親から心配されんのは、も同じだろ?」

「う・・・ こ、今晩、武ん家に泊めて貰っちゃ駄目かな?」

「駄目。」

「なんで」

「連絡も無しに外泊、しかも男の家だってこと、お前の親が知ったら心配するだろ?」

「じゃ、じゃあ、嘘ついて連絡するからさ、友達の京子ちゃんのところだって、隠して言うから!」

「だから、そういうの、駄目だってば」

「・・・・」




「なあ、帰ろうぜ」

「・・・ひとりでかえるの、こわい」

「途中まで付いていってやるから、それでいいか?」

「え、でも・・私の家と武の家って大分遠いよ? だって逆方向、」

「いいから。そしたらちゃんと帰るよな?」

「・・・・・うん」

「よし」





「・・たけしー」

「何だよ」

「武、わたしのこと何処かに拉致ってくれない?」

「・・ええー、そんなことしたら俺、立派な誘拐犯になっちまうじゃん」

「あぁそっかー、じゃあさ、あれにしようよ愛の逃避行!そしたら同意の上だし誘拐にはならないんじゃない?」

「いや、なるかならないかは知らないけどさ。どっちみちやってることは同じだろー?」

「そうだけどさー でもわたし武となら何処へだって行ける自信あるよ?」

「『よ?』って言われてもなあ・・。大体、そんなこと他の奴に言うもんじゃねーぞ?」

「わかってるよ、それくらいー」

「・・・ほら着いたぞお前の家」






「・・・・ほら、頑張れ」

「う、うん」



「・・ね、ねえ、武」

「・・・なんだよ?」



「・・・ほんとうに、わたしと逃避行、してくれたりしない、かな?」

「・・・・・」


「・・・・・あ、ごめん、いまの、忘れて。ごめん」







「・・・なに?」

「明日、ちゃんと学校来いよ?待ってっから」


「・・・うんっ」









に、
優しい貴方に甘えてしまってごめんなさい。 でもね、嘘じゃないんだよ。 ほんとに、ほんとに、貴方と一緒になら何処へだって行けたんだよ。)

もしも俺があの場で全てを振り切って君を連れ去ることが出来たなら、君を苦しみから解き放つことが出来たなら、どんなに良かったことだろうか。)








貴方の 貴女の 心の曇り空が どうか 晴れ渡っていきますように。








(07,07,12)