むせ返るほどの、朱い世界。
「・・」
その中央に、彼がぽつんと立っていて。
静かに、穏やかに、私の名前を呼ぶ。
「」
足元には、もう二度と動かない、ヒトだったモノたちが転がっている。
「・・ こっちへおいで」
どうか、どうか
これが 只の悪い夢だったならいいのに。
よく回らない頭でそんな淡い願いを抱いて
ゆっくり ゆっくり ふらふらとうまく力がはいらなくて覚束ない足で彼に近付いた。
「ひばり、くん」
声が、普段みたいにうまく出ない。震えた。 こわい、のだろうか。(・・なにを?・・彼を?)
心なしかいつもよりも派手に赤く染まったトンファーを握ったままの彼の右手を、何となく、そっと握ってみた。
その肌はひんやりとしていて、その冷たさが私の頭をすこしだけ正常な状態に戻してくれたような気がした。
「。・・こいつら、最近君をしつこく慕っていた奴らなんだよ」
雲雀君の乾いた声が、この朱い世界で静かに響く。
一瞬、血の匂いが強く鼻について吐き気を催しそうになったけれど、懸命に雲雀君の顔を、目を見つめて持ち直す。
彼の目は、すこしだけ虚ろだった。
「この間君に振られた腹いせに、今日、君を襲う計画を立てていたらしい」
「この僕の前でそんなことをしようだなんて」
「全く持って、愚かな奴らだ」
「よっぽど僕に咬み殺されたかったんだろうね」
そう無表情に呟いた雲雀君にすこしの恐怖感を覚えて、
その学ランについた大量の返り血を気にも止めずに とっさに彼を抱きしめた。自分の服なんて気にする余裕は、今の私にはない。
彼は私に抱きつかれたまま黙り込んでしまった。 空気が重く、手の震えがとまらない。
そうしているうちに、視界が段々とぼやけてきた。それを拭ってとめようとせずに放っておくと、しだいに堪え切れずに涙が溢れてきて、雲雀君の服の肩の部分を小さく濡らした。
けれどもうそれを抑えられるほどの余裕も、私にはない。
「・・どう、して・・・っ? こん、な、ひばり、くん」
思わず彼にそう問い掛けてみたけれど、やっぱりまた声がうまく出なかった。
つぐないきれないはじめての罪と、君へのあいじょう
わたしの肩にも、少し冷たい雫が落ちた気がした。
──後書きという名の遺書──
雲雀君が、初めてひとをころした日、っていうイメージで書きました。
というか、実際雲雀殿はひとをころしたことがあるのかどうか曖昧ですね。
本誌では途中で「皆殺しにすればいいのに」なんて物騒な言葉をさらりと仰っていましたけども。
よく考えたら彼は死体処理やらしているんでしたよね。
夜眠れなくてずっと起きていると、こういう系統の話ばかりが浮かんできます。