「あ」

わたしが急にそんな素っ頓狂な声をあげたので、わたしの3歩先くらい前を歩いていたディーノが、こちらを振り返った。

「どうした?」
「んー 別に大したことじゃないよ」

本当に大したことじゃないと思ったので、そう言葉を濁して言うと、何だよ気になるじゃねーか、と茶化すみたいな声で言いながら、わたしの隣に並んだ。コンクリートを踏み締める度にじゃりじゃりと音がして、それは思っていたより大きく辺りに響いた。わたしに合わせて歩調を緩めてくれる気遣いが嬉しかった。

「・・・笑わない?」
「笑わない笑わない」
「・・・何言ってんだこいつ、とか思わない?」
「そんなこと思わねーって! で、どうした?」
「ん、あのね、」

わたしは、数分前そうしたのと同じように、もう一度顔を上へ向けて、夜空を仰いだ。


「星ってさ、どうしてあんなに遠いのかなー、って」

ほら、星ってあんなに綺麗でキラキラしてて、だから思わず自分の元に取って置いておきたくなる魅力があるよね。だけど、ちょっと手を伸ばせばすぐ掴めそうな気がするのに、でも星は宇宙の塵の欠片なだけで、遠過ぎて、どれだけ手を伸ばしたってそれは、ただの屈伸にしかならない。

「これってさ、一種の恋に似てる気がするんだよね」
「恋、かー 言われてみれば、そんな気もするな」

どんなに強く強く想っていても、それらはいつも不確実で曖昧で何の力にも為れず、そしてどれだけそれを欲して一生懸命手を伸ばしたとしても、きっと絶対に届くことの無い、星。

「そういえばディーノもさ、星に似てるよね」
「ん、そーか?自分じゃ良く分かんねーけど・・・ありがとうなっ」

ニッカリ笑ったディーノの顔が、街のネオンのひかりにほのかに照らされて艶めかしく見えて、一瞬どきっとした。ディーノは星だけじゃなくて、月にも似ているかもしれないな、ともぽつり思った。人を惑わせるような妖しい魔力を放つ、美しい満月。そう思ったら少しだけ寂しくなった。

「じゃあ、はあれだな、宇宙飛行士!」
「は、え、宇宙、飛行士?わたしが?」






「そ! は、普通では届かない星を掴める、宇宙飛行士!」

・・・あれ、これ、両想いってことで、いいのかな。



(070820)